誇り
帰りに便意を催してしまい、ファミリーマートに駆け込んだ。
俺がよく行くファミリーマートはトイレが綺麗でウォシュレットが6段階も調整出来る良いトイレ持ちのコンビニなのだ。
いつものように「おしりパワフル」の強でケツを洗っている時、ふと目の前のボロボロになった貼り紙に気づいた。
「いつも綺麗に使ってくださってありがとうございます。 店主」
文言自体はどこのコンビニでも見る文言だ。しかし最後の名前に注目してほしい。
店主、だ。
店主と聞いて想像するのはラーメン屋、本屋、和菓子屋、それもかなり老舗のそれだ。無骨でヒゲを蓄えた気難しそうな老人というのが俺の中のセオリーでもあった。
店主?コンビニで?
コンビニの店主という言葉はあまり聞き慣れない。オーナーや店長というのが一般的だろう。よほど『店主』という称号に、この店に誇りを持っているのだろう。実際、店内は綺麗で快適。イートインスペースもあり、何と言ってもトイレが最高だ。この店は最高のファミリーマートだと思う。
ケツを洗いながら、そう考えている内に、湧き上がる好奇心に気づいた。
「店主。あの無骨でヒゲを蓄えた気難しそうな老人に会えるのか。」、と。
俺はケツを十分に洗い、トイレを出た。
まだだ。まだ焦ってはいけない。店主が出て来るのを見計らうんだ。
俺はレジに老人が居ないか確認する。居ない。機を見ろ。
雑誌を読むフリをしてレジをチラ見する。へー、千円札って横幅ちょうど15cmなんだ。
そうしてる内に店主らしき人物がレジに立った。来た。この時を待っていた。
飲み物を手に取り、ワクワクしながらレジに向かう。
レジに立ち、店主らしき人物の胸のプレートを見る。トレーニング中。嘘だろ?
レジの店員さんはどうやらアルバイトのようだ。
少し落胆したその時、先ほどレジに立っていた店員さんが事務所から出てきた。
燦然と輝く胸のプレートには店長の文字、30代くらいの気の良さそうな男性。おい、おい……………
俺のワクワクを返してくれよ。
普通に烏龍茶とタバコを買って店を出た。
2月の風は………ワクワクを失った俺の心のように冷たかった。
(キタグチ)